が好い(大)イエ名前を先《さき》云《いっ》て仕舞ては貴方が終りまで聞《きか》ぬから了《いけ》ません先ずお聞なさい、今度は傷の事から申します、第一はアノ背中に在る刃物の傷ですが是は怪《あやし》むに足りません、大抵人殺は刃物が多いから先ず当前《あたりまえ》の事と見逃して扨て不審儀《ふしぎ》なのは脳天の傷です、医者は槌で叩いたと云いますし、谷間田は其前に頭挿《かんざし》でゞも突ただろうかと怪んで居ますが両方とも間違いです、何より前《さき》に丸く凹込《めりこ》んで居る所に眼を留《とめ》ねば成ません、槌で叩たなら頭が砕けるにもしろ必ず膨揚《はれあが》ります決して何日《いつ》までも凹込んで居ると云う筈は無い、夫《それ》だのにアノ傷が実際凹込んで居るのは何《ど》う云う訳でしょう、是は外でも無いアレ丈の丸い者が頭へ当って当ッた儘で四五分間も其所を圧附《おしつけ》て居たのです、其中に命は無くなるし血は出て仕舞い膨上《はれあが》るだけの精が無く成《なっ》た、サア精の無く成た後で其丸い者を取たから凹込切《めりこみぎり》に成たのです、夫なら其丸の者は何か、何うして爾《そう》長い間頭を圧附けて居たのか是が一寸《
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