えて「夫《それ》では支那人が殺したと云うのか(大)ハイ支那人が殺したから非常な事件と云うのです、固より単に人殺しと云うだけの罪ですけれど支那人と有《あっ》て見れば国と国との問題にも成兼《なりかね》ません事に由ては日本政府から支那政府へ―(荻)併し未だ支那人と云う証拠が充分に立《たゝ》ぬでは無いか(大)是で未だ証拠が立ぬと云うは夫《それ》や無理です、第一此罪人を男か女かとお考えなさい、アノ傷で見れば死《しぬ》る迄に余ほど闘った者ですが女ならアレほど闘う中に早く男に刃物を奪取《うばいとら》れて反対《あべこべ》に殺されます、又背中の傷は逃《にげ》た証拠です、相手が女なら容易の事では逃げません、夫に又女は―(荻)イヤ女で無い事は理屈に及ばぬ箱屋殺しの様な例《はなし》も有るけれど夫は不意打、アノ傷は決して不意打で無く随分闘った者だから夫は最《も》う男には違い無い(大)サア既に男とすれば誰が一尺余りの髪《け》を延《のば》して居ますか代言人の中には有《ある》とか言いますけれど夫は論外、又随分チョン髷も有りますが此髪の癖を御覧なさい揺れて居る癖を、代言人や壮士の様な散《ちら》し髪《げ》では無論、此癖は
前へ 次へ
全65ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング