、夫《それ》は何かと云うに鬘《かつら》です鬘や仮面《めん》には随分逆毛が沢山交ッて居ます夫《それ》だから私しは若しや茶番師が催おしの帰りとか或は又|仮粧蹈舞《ファンシーボール》に出た人が殺したでは無いかと一時は斯も疑ッて見ました併し大隈伯が強硬主義を取てから仮粧蹈舞は悉皆《すっかり》無くなるし夫《それ》かとて立茶番《たちちゃばん》も此頃は余り無い、夫に逆毛で無い後の二本を熟《よ》く検めて見ると其根の所が仮面《めん》や鬘から抜《ぬけ》た者で無く全く生《はえ》た頭から抜た者です夫は根の附て居る所で分ります殊に又合点の行かぬのは此《この》縮《ちゞ》れ具合です、既に天然《うまれつき》の縮毛では無く全く結癖《ゆいぐせ》で斯う曲ッて居るのですから何《ど》う云う髪を結べば此様な癖が附ましょう、私しは宿所へ来る髪結にも聞きましたが何《ど》うも分らぬと云いました、爾《そう》すれば最《も》う全然《すっかり》分らん、分らんのを能く/\考えて見ると有りますワエ此通り髪の毛に癖の附く結い方が、エ貴方何うです、此癖は決して外では無い支那人ですハイ確に支那人の頭の毛です
荻沢警部は暫し呆れて目を見張りしが又暫し考
前へ
次へ
全65ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング