れを拭取りながら椅子に憑《よ》り「唯だ大変とばかりでは分らぬが手掛でも有たのか(大)エ手掛、手掛は最初の事です最う悉皆《すっかり》分りました実《まこと》の罪人が―何町何番地の何の誰と云う事まで」荻沢は怪しみて「何うして分った(大)理学的論理的で分りました而《しか》も非常な罪人です実に大事件です」荻沢は殆ど大鞆が俄《にわか》に発狂せしかと迄に怪しみながら「非常な罪人とは誰だ、名前が分って居るなら先ず其名前を聞《きこ》う(大)素《もと》より名前を言《いい》ますが夫より前に私《わた》しの発見した手続きを申ます、けどが長官、私しが説明して仕舞う迄は此|室《ま》へ誰れも入れぬ事に仕て下さい小使其他は申すに及ばず仮令《たと》い谷間田が帰って来るとも決して無断では入れぬ事に(荻)好々《よし/\》谷間田はお紺の隠伏《かくれ》て居る所が分ったゆえ午後二時までには拘引して来るとて今方出て行たから安心して話すが好い」荻沢は固《もと》より心から大鞆の言葉を信ずるに非ず今は恰《あたか》も外に用も無し且は全く初陣なる大鞆の技量を試さんとも思うにより旁々《かた/″\》其言う儘に従えるなり(大)では長官少し暑いけどが
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