顔をして散々谷間田に誇らせて置て爾《そう》だ明日の正午十二時にはサア罪人は何町何番地の何の誰ですと明了《めいりょう》に言切ッて遣る愉快愉快併し待《まて》よ唯一通りの犯罪と思ッては少し違う、罪人が何うも意外な所に在るから愈々其名前を打明る日にゃ社会を騒がせるテ、輿論を動かすテ、条約改正の様に諸方で之が為に、演説を開く様になれば差当り己が弁士先ず大井憲太郎君と云う顔だナ―故郷へ錦、愉快/\」大鞆は独り頬笑み警察署へは入らずして其儘又も我宿へブラ/\と帰り去れり
アヽ大鞆は如何なる試験を為し如何なる事を発明せしや僅か三本の髪の毛、如何なる理学的ぞ如何なる論理的ぞ谷間田の疑えるお紺は果して全くの無関係なるや、疑団又疑団、明日の午後《ひるすぎ》には此疑団如何に氷解するや
中篇(忖度《そんたく》)
翌六日の正午、大鞆は三筋の髪の毛を恭《うや/\》しく紙に包み水引を掛けぬばかりにして警察署に出頭し先ず荻沢警部の控所に入れり、折柄警部は次の室《ま》にて食事中なりしかば其終りて出来《いできた》るを待ち突如《だしぬけ》に「長官大変です」荻沢は半拭《はんけち》にて髭の汚《よご》
前へ
次へ
全65ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング