田に煽起《おだて》を利《きか》せて彼れが探り得たる所を探り得んと茲に来りし者なる可《べ》し去れど谷間田は小使いより聞得し事ありて再び大鞆に胸中の秘密を語らじと思える者なれば一寸《ちょっ》と大鞆の顔を見向き「今に見ろ」と云いし儘《まゝ》、後は口の中にて「フ失敬な―フ小癪な―フ生意気な」と呟《つぶや》きながら彼の石の橋を蹈抜《ふみぬ》く決心かと思わるゝばかりに足蹈鳴して渡り去れり大鞆は其後姿を眺めて「ハテナ、彼奴《きゃつ》何を立腹したか今に見ろと言ふアノ口振《くちぶり》ではお紺とやらの居所でも突留たかなナニ構う者かお紺が罪人で無い事は分ッて居る彼奴《きゃつ》夫《それ》と知らずに、フ今に後悔する事も知らずに―夫にしても理学論理学の力は剛《えら》い者だ、タッた三本の髪の毛を宿所の二階で試験して是だけの手掛りが出来たから実に考えれば我ながら恐しいナア、恐らく此広い世界で略《ほ》ぼ実《まこと》の罪人を知《しっ》たのは己一人だろう、是まで分ッたから後は明日の昼迄には分る、面白い/\、悉皆《すっかり》罪人の姓名と番地が分るまでは先ず荻沢警部にも黙ッて居て、少しも私《わた》しには見当が附ませんと云う様な
前へ
次へ
全65ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング