茲等《こゝら》を締《しめ》ますよ昨日も油断して独言を吐《いっ》て居た所ろ後で見れば小使が廊下を掃除しながら聞て居ました、壁に耳の譬えだから声の洩れぬ様にして置《おか》ねば安心が出来ません」と云いつゝ四辺の硝子戸を鎖《とざ》して荻沢の前に居直り、紙包みより彼の三筋の髪毛《かみのけ》を取出しつ細語《さゝや》く程の低き声にて「長官|此《この》髪《け》を御覧なさい是はアノ死人が右の手に握って居たのですよ(荻)オヤ貴公も夫《それ》を持て居るか谷間田も昨日一本の髪を持て居たが(大)イエ了《いけ》ません谷間田より私しが先へ見附たのです、実は四本握って居たのを私しが先へ廻って三本だけソッと抜て置きましたハイ谷間田は夫に気が附きません初めから唯一本しか無い者と思って居ます」荻沢は心の中にて(個奴《こやつ》馬鹿の様でも仲々抜目が無いワえ)と少し驚きながら「夫《それ》から何《ど》うした(大)谷間田は之を縮れ毛と思ってお紺に目を附ました、夫が間違いです若し谷間田の疑いが当れば夫は偶中《まぐれあた》りです論理に叶った中方《あたりかた》では在ません、私しは一生懸命に成て種々の書籍を取出しヤッと髪の毛の性質だけ調べ
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