り飛退《とびの》きて「ヘイヘイ凡そ見当は附きました是から直《すぐ》に探りを初めましてナニ二三日の中には必ず下手人を捕えます」と長官を見上たる谷間田の笑顔、成るほど此時は愛嬌顔なりき―上向けば毎《いつ》でも、
 谷間田は直《すぐ》帽子を取り羽織を着てさも/\拙者は時間を無駄には捨《すて》ぬと云う見栄で、長官より先に出去《いでさり》たり、後に長官荻沢は彼《か》の取残されし大鞆に向い「何《ど》うだ貴公も何か見込を附けたか、今朝死骸を検《あらた》めて頭の血を洗ったり手の握具合《にぎりぐあい》に目を留めたりする注意は仲々|素徒《しろうと》とは見えんだッたが」大鞆は頭に手を置き「イヤ何うも実地に当ると、思ッた様に行きませんワ、何うしても谷間田は経験が詰んで居るだけ違います今其意見の大略《あらまし》を聞てほと/\感心しました(荻)夫《そり》ゃなア何うしても永年此道で苦労して居るから一寸《ちょっ》と感心させる様な事を言うテけれども夫に感心しては了《いけ》ん、他人の云う事に感心してはツイ雷同と云う事に成て自分の意見を能《よ》う立《たて》ん、間違《まちがっ》ても好《よい》から自分は自分だけの見込を附け見込
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