下の各新聞紙皆左の如く記したり
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◎無惨の死骸 昨朝六時頃築地三丁目の川中にて発見したる年の頃三十四五歳と見受けらるゝ男の死骸は何者の所為《しわざ》にや総身に数多《あまた》の創傷、数多の擦剥《すりむき》、数多の打傷あり背《せな》などは乱暴に殴打せし者と見え一面に膨揚《はれあが》り其間に切傷ありて傷口開き中より血に染みし肉の見ゆるさえあるに頭部《あたま》には一ヶ所太き錐にて突きたるかと思わるゝ深さ二寸余の穴あり其上|槌《つち》の類にて強く殴打したりと見え頭は二ツに割《さ》け脳骨砕けて脳味噌散乱したる有様実に目も当《あて》られぬ程なり医師の診断に由れば孰《いず》れも午前二三時頃に受けし傷なりと同人の着服《きもの》は紺茶|堅縞《たてじま》の単物《ひとえもの》にて職業も更に見込附かず且つ所持品等は一点もなし其筋の鑑定に拠れば殺害したる者が露見を防がんが為めに殊更奪い隠したる者ならん故に何所《いずこ》の者が何の為めに斯く浅ましき死を遂げしや又殺害したる者は孰れの者か更に知る由なければ目下厳重に探偵中なり(以上は某《それ》の新聞の記事を其儘《そのまゝ》に転載したる者なり)
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