学的論理的を以て一々警部に対《むか》って答弁するごとき皆な意表に出《いで》て人の胆を冷し人の心を寒《さむか》らしむる等実に奇々怪々として読者の心裡を娯《たのし》ましむ此書や涙香君事情ありて予に賜う予印刷して以て発布せしむ世評尤も涙香君の奇筆を喜び之を慕いて其著書|訳述《やくじゅつ》に係る小説とを求めんと欲し続々投書山を為《な》す之をもって之を見れば君が文事に於ける亦《ま》た羨むべし嗚呼《あゝ》涙香君は如何なる才を持て筆を採るや如何なる技を持って小説を作るや余は敢て知らず知らざる故《ゆえ》に之れを慕う慕うと雖《いえど》も亦た及ばず是れ即ち天賦《てんぷ》の文才にして到底追慕するも亦画餠に属すればなりと予は筆を投じて嗟嘆《さたん》して止みぬ
[#天から2字下げ]明治廿二年十月中旬
[#天から4字下げ]香夢楼に坐して梅廼家かほる識《しる》す
[#改ページ]

          上篇(疑団《ぎだん》)

 世に無惨《むざん》なる話しは数々あれど本年七月五日の朝築地|字《あざな》海軍原の傍らなる川中に投込《なげこみ》ありし死骸ほど無惨なる有様は稀なり書《かく》さえも身の毛|逆立《よだ》つ翌六日府
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