ろ》い事は箝《わ》を掛てるネ日本人に爾《そう》して今は何所に、ア爾《そ》う本郷に奉公、ア爾う可愛相に、金起さんも一緒かえ、ア爾う金起さんは横浜に、ア爾う別々で逢う事も出来ない、ア爾う可愛相に、ア爾う親指の来た事を聞いて、ア爾う可愛相に用心の為め分れてか、ア爾う今日久ぶりに逢ッて、ア爾う可愛相に、夫《それ》ではお前斯うお仕な今夜はネ家へ来てお宿りな金起さんと二人で、ナニ浮雲《あぶな》い者か昨日横浜へ行て明後日で無ければ帰らんよイエ本統に恐い事が有る者かイエお泊りなお泊りよ若し何だアネ帰ッて来れば三人で裏口から馳出さアネ、ナニ寧児だッて大丈夫だよ、多舌《しゃべり》や仕無《しない》よ本統のお父さんとお母さんが泊るのだもの多舌するものか、ネエ寧児、此子の名前は日本人の様で呼び易くッて好い事ネ隣館《おとなり》の子は矢ッ張り合の子で珍竹林と云うのだよ可笑《おかし》いじゃ無いかネエ、だから私が一層の事寧次郎とするが好と云うんだよ、来てお泊りな裏から三人で逃出さアネ、イエ正直な所は私しも最う彼処《あすこ》に居るのは厭で/\成《なら》ないのお前達と一緒に逃げれば好かッた、アヽ時々|爾《そう》思うよ今でも連れて逃げて呉《くれ》れば好いと、イヽエ口《くち》には云《いわ》ぬけれど本統だよ、来てお泊りな、エ、お前今夜も明《あす》の晩も大丈夫、イエ月の中に二三度は家を開るよ横浜へ行てサ、其留守は何《どん》なに静で好だろう是からネ其様《そんな》時には逃《のが》さず手紙を遣るから来てお泊りよ、二階が広々として、エお出なネお出よお出なね、お出よう」母は独りで多舌立《しゃべりた》て放す気色も見えざる故、妾も金起もツイ其気になり此夜は大胆にも築地陳施寧の家に行き広々と二階に寐《い》ね次の夜も又泊り翌々日の朝に成り寧児には堅く口留して帰りたり此後も施寧の留守と為ること分るたびに必ず母より前日に妾の許へ知らせ来る故、妾は横浜より金起を迎え泊り掛けに行きたり、若し母と寧児さえ無くば妾《わらわ》斯《かゝ》る危き所へ足蹈もする筈なけれど妾の如き薄情の女にも母は懐しく児は愛らしゝ一ツは母の懐しさに引《ひか》され一ツは子の愛らしさに引されしなり、去れば其留守前日より分らずして金起を呼び迎える暇なき時は妾唯|一人《ひと》り行きたる事も有り明治二十年の秋頃よりして今年の春までに行きて泊りし事|凡《およ》そ十五度も有る程な
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