《これ》や考えて見ると藻西と云う方が何《ど》うしても近いかと思われます、詰《つま》り藻西は何《なん》でしょう随分智慧の利《き》く男で、通例の手段では倒底助からぬと思ッたからずッと通越して此様な工夫を定めたのでしょう」細君の言葉の調子が斯《か》く大《おおい》に柔かくなるに連れ余の疑いも亦再び芽を吹き「爾《そう》すると藻西が自分で白状したのは何《ど》う云う者でしょう細「夫《それ》が即ち彼れの工夫の一部分では有ませんか余「だッて貴女、彼れは老人が何で殺されたか夫《それ》さえ知ぬ程ですもの細「知ぬ事は有ますまい、貴方がたが鎌を掛たから夫《それ》を幸いに益々知らぬ振《ふり》をするのです、此方から短銃《ぴすとる》と言た時に直様《すぐさま》はい其|短銃《ぴすとる》は云々《しか/″\》と答えたのが益々彼れの手管《てくだ》ですわ、詰《つま》り彼れは丁度計略の裏を書《かい》て居るのです、其時若し彼れがいえ短銃《ぴすとる》では有ません短剣でしたと答えたなら貴方がたも之ほどまで彼れを無罪とは思わず彼れの工夫が破れて仕舞いましょう、貴方がたの見て驚く所が彼れの利口な所だと私しは思いますが」
余は猶《な》お何と
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