知て居ます、はい私しは人を殺したから其罪で殺されるのです」彼れの言条《いいじょう》は愈々《いよ/\》出《いで》て愈々明白なり、流石《さすが》の目科も絶望し、今まで熱心に握み居たる此事件も殆ど見限りて捨んかと思い初めし様子なりしが、空箱を一たび鼻に当て忽《たちま》ち勇気を取留し如く、彼の心を知る余にさえも絶望の色を見せぬうち早くも又元に復《かえ》り「爾《そう》か、本統にお前が殺したのか、夫にしても猶《ま》だ首切台ノ殺されるノと其様な事を云う時では無いよ、裁判と云う者は少しの証拠で人を疑うと同じ事で其代り又少しでも証拠の足らぬ所が有れば其罪を疑うて容易には罪に落さぬ。好いか、此度の事件でもお前の白状は白状だ、夫にしてもお前の白状だけでは足りぬ、猶《な》お其外の事柄を能《よ》く調て愈々《いよ/\》お前に相違ないと見込が附けば其時初めて罪に落す、若しお前の白状だけで外の証拠に疑わしい所が有れば情状酌量《じょう/\しゃくりょう》と云て罪を軽める事も有り又証拠不充分と云て其儘《そのまゝ》許す事も有る」と殆《ほとん》ど噛《かん》で食《ふく》めぬばかり諄々《じゅん/\》と説諭《ときさと》すに罪人は心の
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