れたのか爾《さ》無《な》くば吾々を欺して居るのだ必ず其|二《ふたつ》に一《ひとつ》だ巡「其様《そのよう》な事は有ません夫《それ》は私しが誓います目「いや誓うには及ばぬ無言《だまっ》て居なさい、何でも藻西太郎の言た事をお前が聞違て白状だと思たのか、夫《それ》ともお前が手柄顔に何も彼も分ッた様に言い吾々を驚かせようと思ッたのだ」此厳しき言葉を聞くまで最《い》と謙遜に構えたる巡査なれど今は我慢が出来ずと思いし如く横柄に肩を聳動《うごか》し「へえ御免を蒙《こうむ》りましょう、憚《はゞか》りながら私しは其様な馬鹿でも無ければ嘘つきでも有《あり》ません自分の言う事くらいは心得て居《おり》ますから」と遣返《やりかえ》す、此儘に捨置なば二人の間に攫《つか》み合も初り兼《かね》ざる剣幕なれば警察長は捨置かれずと思いし如く割て入り「いや目科君待ち給え詳しく聞終ッた上で無ければ分らぬから」と云い更に巡査に打向いて「さ事の次第を細かに述べ今一応|説明《ときあか》して見ろ」と命じたり、巡査は此命を得て俄《にわか》に己の重きを増したる如く一寸《ちょい》と目科を尻目に掛け容体《ようだい》ぶりて説き始む「私しは貴官の
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