》れとも倉子が此罪の発起人なるに相違なけれど倉子の自由自在に湧出る涙は能く陪審員の心を柔げ倉子は関係無き者と宣告せられ生田は情を酌量し懲役終身に言渡されたり。
藻西太郎は妻に代りて我身を捨んとまで決心したる男なれば倉子が放免せらるゝや直《たゞ》ちに引取りて元の通りに妻とせり、梅五郎老人の身代は藻西太郎の手に落たれど倉子の贅沢増長したれば永く続く可しとも思われず、此頃は其金にてトローンの近辺へ不評判なる酒店を開業し倉子は日夜酒に沈溺せる有様なれば一時美しかりし其|綺倆《きりょう》も今は頽《くず》れて見る影なし、太郎も倉子が酔たる時は折々機嫌を取損ね打擲《ちょうちゃく》せらるゝ事もありと云えば二人《ににん》はそろ/\零落の谷底に堕落し行く途中なりとぞ。[#地付き](以上、後の探偵吏カシミル、ゴヲドシル記《しる》す)
[#地から1字上げ](終)
[#地付き](小説集『綾にしき』明治二十五年八月刊収載)
底本:「日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎集」創元推理文庫、東京創元社
1984(昭和59)年12月21日初版
1996(平成8)年8月2日8版
初出:「綾
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