の貴族等はまた、自分が酋長に対してやることを、同じようにその臣下のものに強いる。バロンダ族の平民は、道で貴族の前に出ると、四這いになって、体や手足に土をぬりつける。キアマ族もまた貴族の前に出ると、急に地べたに横になる。
 ダホメーの酋長の家では、臣下は玉座の二十歩以内に近よることを禁ぜられて、ダクロと称する老婆によって、酋長へのいっさいの取次ぎをして貰う。まずその取次ぎを請うものは、ダクロの前へ四這いになって行く。そしてダクロはまた四足になって、酋長の前へ這って行く。

    四

 野蛮人のこの四這い的奴隷根性を生んだのは、もとより主人に対する奴隷の恐怖であった。けれどもやがてこの恐怖心に、さらに他の道徳的要素が加わって来た。すなわち馴れるに従ってだんだんこの四這い的行為が苦痛でなくなって、かえってそこにある愉快を見出すようになり、ついに宗教的崇拝ともいうべき尊敬の念に変ってしまった。本来人間の脳髄は、生物学的にそうなる性質のあるものである。
 そして酋長は他の人間以上のあるものになってしまった。
 ナチエーの酋長は太陽の兄弟であった。そしてこの資格をもって、その臣下の上に絶対権を
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