サの後、パリのあちこちを歩いて見たが、こうした西洋便所じゃない、そして幾室あるいは幾軒もの共同の、臭いきたない便所がいくらでもあるのだ。そして田舎ではそれがまず普通なのだ。
 僕はまた、西洋便所とともに、西洋風呂も気持のいいものだと思っていた。が、このトレ・コンフォルタブルな安ホテルでは、どこの看板にも風呂付きというのは見たことがない。そしてまた、普通のうちで風呂なぞのあるのは滅多にない。男でも女でも、みんな一カ月に一度か二カ月に一度、お湯屋へはいりに行くのだ。しかもそのお湯屋だって、そうやたらにあちこちにあるのじゃない。ちょうど、有料の西洋便所とおなじくらいの程度に、ごく稀れにぶつかるだけだ。幸い僕は、このお湯屋もすぐ近所に見つけたので、二、三日目には二フラン五十(三十五銭ばかり)奮発して、そこのいいお得意様になった。もう一フラン出せば、その辺では立派な夕飯が食えるんだ。

    二

 しかし僕だって、そんな安ホテルで野蛮人のような生活ばかりしていたんじゃない。大して上等でもないが、とにかくまず紳士淑女のとまるホテルへも行った。
 実は、前のホテルが仲間の巣のすぐ近所なので、その
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