トあの身元証明書がないと、すぐ警察へ引っぱって行かれて、罰金か牢を仰せつかるんです。外国人ならその上にすぐ追放ですね。」
が、僕は女のこの返事が終るか終らないうちに、社のすぐ前の角に制服の巡査が三人突っ立っているのを見た。みな社の方を向いて、社の入口ばかりを見つめているようなのだ。
「おや、制服が立っていますね。」
僕は少々不審に思って聞いた。
「例のベルトン事件以来、ずっとこうなんです。」
と言って、彼女は、最近に王党の一首領を暗殺した女無政府主義者ジェルメン・ベルトンの名を出した。そしてその以前からも、集会は勿論厳重な監視をされるし、家宅捜索もやる、通信も一々調べる、尾行もやる、遠慮なく警察へ引っぱって行く、という風だったのだそうだ。
「はあ、やっぱり日本と同じことなんだな。」
僕はそう思いながら、たぶんその巡査どもの視線を浴びながらだろう、ル・リベテエル社の中へはいって行った。
[#地付き]――一九二三年四月五日、リヨンにて――
[#改ページ]
パリの便所
一
パリにつくとすぐ、仲間の一人の女に案内されて、その連中の巣くっている家の近所の、あるホテルへつれ
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