黷ヘ、やはり上海にいた支那の国民党のある友人に会いたいということを、朝鮮のRに話した。Rはその友人の家へ行ったが、旅行中で留守なので、ただ僕が何々ホテルにいるということだけを書き置いて来た。友人は帰ってからすぐ僕のホテルへ来た。そして、きっと変名しているのだろうと思って、ただ日本人がいないかと尋ねた。すると、日本人はいないというので、さらに日本人らしい支那人はいないかと聞いたが、そんなのもいないと言う。で、仕方なしに旅客の名と室の番号を書き列ねた板の上を見廻した。
「はあ、これに違いない。」
彼はその中のある名を見て、一人でそうきめて、その番号の室へ行った。そしてはたしてそこに僕を見出した。
「あんな馬鹿な名をつける奴があるもんか。」
彼は僕の顔を見るとすぐ、笑いこけるようにして言った。
「何故だい。朝鮮人がつけてくれた名なんだけれど。」
僕はその笑いこける理由がちっとも分らないので、真面目な顔をして聞いた。
「何故って君、唐世民だろう、あれは唐の太宗の名で、日本で言えば豊臣秀吉とか徳川家康とかいうのと同じことじゃないか。が、お蔭で僕は、それが君だってことがすぐ分ったんだ。本当の
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