校時代に、フランス人の教師が話して聞かしたちょっと面白い話を思いだした。それは、泥棒が国境近くでつかまえられそうになると、向うの国境内へ逃げて行って、そこから赤んべいをしたり舌をだしたりして、どうともすることのできない巡査を地団太ふましてからかうと言うのだ。そして僕は、
「そうなると僕は、スペインの牢にはいるか、フランスの牢にはいるか、それともスペインとフランスとの国境にまたがっていて、スペインの巡査が来たらその方の足を引っこまし、フランスの巡査が来たらその方の足を引っこまして、幾日でもそうしたまま立ち続けるようなことになるんだね。」
 と笑ってやった。が、主事は、
「まあそんなものさね。」
 ときまじめに済ましていた。

 僕はまた二、三時間もとの室で待たされた。そしてはたして杉村君がまたやって来たのかどうか分らなかったが、たぶんそのとりなしのせいだろうと思う、また主事室へ呼び出されて、これからすぐマルセイユへ出発しろと命ぜられた。
「誰にも会うことはできない。すぐ私服と一緒に停車場へ行って、第一の汽車で出発するのだ。」

 ガアル・ド・リヨンの停車場へ自動車で着いたのは、ちょうど八
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