来たんですが、僕もできるだけはあなたの便宜のためにここと交渉して見ようと思うんです。」
 杉村君はこう言って、何とか取りなして見たいということを詳しく話した。大使館は日本の政府から僕にいっさいの旅券を出すことを禁ぜられたのだ。したがってスペイン行きの旅券も出すことはできない。で、僕については大使館で責任を持つことにして、もう数カ月間追放を延ばして貰おうというのだ。
 杉村君はそのことをすこぶる鄭重な言葉で主事に嘆願するように言った。が、主事はいったん出た命令はどうしても取消すことができないと頑ばった。
 で、杉村君はもう一度大使館へ行って相談して来ると言って帰った。

 僕は主事に、大使館で旅券をくれなければ、よし僕が今フランスの国境を出たところで、スペインの官憲がその国内に僕を入れるかどうかと尋ねた。
「さあ、それはよその国のことだから、僕には分らない。」
「それじゃ、もしスペインで僕を入れなければ、僕はどうなるんだろう。」
「僕の知っているのはただ、君がそれでまたフランスの国境内にはいって来れば、すぐつかまえて牢に入れるということだけだね。」
 僕は主事のこの返事を聞いて、昔、語学
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