挙の候補者として、未曽有の投票数で当選した。反対諸党は合同して一人の候補者を出す筈であったのだが、この謀叛人側の前景気がばかにいいのに恐れをなしてまったくひっこんでしまったので、本当の一人天下で当選したのだ。そしてこの選挙にもう一つの面白い現象は、棄権者が全有権者の半分以上もあったことだ。近郊と言えば大がいは労働者町なのだ。フランスの労働者は、少なくともパリ近郊の労働者は、半分は謀叛人に組みし、残りの半分はまったく政治に興味を持たないのだ。
この「謀叛人」はまた、それとほとんど同時に、やはりパリ近郊のある町から、市会議員としても選挙された。
が、はたして彼が、かくして労働者の望み通り代議士または市会議員となって釈放されたか、あるいはまた、政府の望み通り当選無効となってまだやはり牢やにいるか。その後のことは知らない。
しかし、兵役を攻撃したり、戦争に反対したり、またこんな謀叛人の話を得意になってするからといって、ジャン君は決して共産主義者でもなければ、またその他の何々主義の危険人物でも何でもない。
「君も一種の社会主義者だね。」
何かの話の時に僕がこう言ってひやかしたら、
「そうだ、社会主義者だ。」
と立派に肯定して置いて、そして彼自身のいわゆる社会主義なるものを説明して聞かした。それによると、要するに彼は、資本家と労働者とのいわゆる利益分配で十分満足しているようなのだ。
ヨーロッパで社会主義者《ソシャリスト》だと言っている人間は、まあ大がいそんなものと見ていい。昔僕は、ドイツの社会党首領ベーベルなぞは、大隈の少し毛のはえたくらいのものだろうと言ったことがあるが、今ではもっともっと社会主義者の値うちは下落している。共産主義者だってだんだん下落して来ている。
そしてジャン君は、ひまさえあれば、シェークスピア全集の英文の安本を字引を引き引き読み耽っていた。そしてまた時々、一尺もの高さの手紙やハガキの束を引きずり出して、一人でにこにこしながら読んでいた。そのいいなずけ[#「いいなずけ」に傍点]だという、同郷ブルタニュのある百姓娘からよこした文がらなのだ。そして彼はこのいいなずけ[#「いいなずけ」に傍点]と一緒に、もとの平和な百姓の生活にはいるべく毎日日数を数えていた。
三
このジャン君と一、二度話ししている間に、もうその友達になっていた、若いロシ
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