]のお蔭で、弁護士がしきりにそれを力説しましてね、お蔭で二カ年間の執行猶予になりましたよ。」
彼は嬉しそうにしかし皮肉に笑いながらはいって来て、僕の手を握った。そして、間もなくまたみんなは仮監から出されて、馬車で監獄へ送られた。
七
翌二十四日の朝、巡査に送られて裁判所の留置場へ行った。
「グラン・サロン(大客室《だいきゃくま》)へ!」
と言われたので、どんなサロンかと思って巡査について行くと、前にいた留置場のそばの、やはりそこと同じような鉄の扉をがちゃがちゃと開けて押しこまれた。
なるほど大広間には違いない。椅子をならべて演説会場にしても、五百や六百の人間はらくにはいれそうな広さだ。昔は、この裁判所は、そのそばの警視庁などと一緒に、何とか王の宮殿だったのだそうだから、その頃の何かの大広間なのだろう。床はたたきになっているが、そこに大理石の大きな円柱が三、四本立っていて、天井なんぞもずいぶん立派なものだ。はいって見ると、あっちにもこっちにも、五、六人乃至七、八人ずつかたまって、何かおしゃべりしている。僕はその一団の、少し気のきいた風をした若い連中のところへ近づいて行った。
みんなはフランス語で話ししているが、その調子にどこか外国人らしいところがある。顔もフランス人とは少し違う。
「君も追放ですね。」
その中の背の高いイタリア人らしいのが、僕の顔を見るとすぐ問いかけた。
「ああ、そうですか、僕等もみんな追放なんです、まあ、一ぷくどうです?」
そしてその男は煙草のケースをさし出しながらこう言った。
いろいろ話はして見たが、別にどうという悪いことはした様子もない。が、とにかくちょっと牢にはいって、今追放されるのだと言うんだから、いずれ旅券か身元証明書の上の何かの不備からなのだろう。そしてその色男らしい風采[#「風采」は底本では「風釆」]や処作から推すと、どうも「マクロ」らしく思われた。マクロというのは、淫売に食わして貰っている男のことだ。
が、その男等は誰一人として、イタリアやスペインやポルトガルなぞの、自分の国へ帰ろうというものはない。また、そのほかのどこかの国へ行こうというものもない。みな、このままフランスに、しかもパリに、とどまっているつもりらしい。
「追放になっても、国境から出なくっていいんですか。」
僕は、みんなあんまり呑気至極に
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