辮カですから。嵐はだんだんひどくなって来ます。あんな物すごいさびしい音を聞きながら、こんな広い二階にひとりっきりでいるのは可哀そうでしょう。でも、何にも邪魔をされないで、あなたのお書きになったものを読むのは、たのしみです。本当に、静かに、おとなしくしていますよ。でも、ちょっとの間だってあなたのことを考えないではいられません。こうやっていますと、いろいろな場合のあなたの顔が一つ一つ浮んできます。
「わずか一週間ばかりの間の私自身の気持を考えてみますと、その変りかたのひどいのに自分ながら不思議がっています。こうやっていましても、会いたいと思い出すと堪らなく会いたいのですけれど、何の不安も動揺も感じません。他の二人の方に対しても自分に対しても。こうやって書いていますと、いくらでも書けそうですから、もう止めましょう。止めようと思いますと、嵐の音が気になって来ます。東京もこんなにひどいのでしょうか。ここはまともに当てますから雨戸を開けて置くこともできないのです。一時間でも早くお目に懸かれるようにして下さい。お願致します。」
野枝さん。
君に宛てる手紙の中に、こうして君からの手紙を抜書きするの
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