竚Nやまたは神近に対する、彼女の盲目と醜悪とを現すのだ。けれども、彼女のこの盲目と醜悪とが、彼女にとって、なぜ無理なのだろうか。
 野枝さん。
 僕は繰返して言う。彼女は、その亭主を、しかも二人の女に寝とられた女である。その亭主および二人の女に対する、彼女の嫉妬や恨みや、いやみや皮肉が、なぜ無理なのだろうか。それをしも、単に彼女の盲目とか醜悪とか言って、その亭主および二人の女は済ましていられることだろうか。
 彼女は、諸君と同じく、愛かしからずんば嫉妬かの、幾千年幾万年の習慣の中に育って来た女である。愛を奪われたと思う時の、その嫉妬に、何の不思議があろう。彼女は、諸君と同じく、男の腕にすがって生活する、幾千年幾万年の習慣の中に育って来て、しかもまだ、諸君のごとくにはそこから抜け出ることのできない女である。男を奪われたと思う時の、その絶望に、何の不思議があろう。しかも彼女には、本当に安心して頼るべき親戚もなく友人もなく、そして彼女自身は、いわゆる不治の病を抱いて、手荒らな仕事の何一つできないからだでいるのだ。
 それでもなお彼女は、そのあらん限りの力をもって、彼女自身を支えようとしている
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