ヌばかりは、まったくの盲目になってしまった。そして、ただもう、僕のいわゆる乱行にあきれ返っている態だ。
と言っても、必ずしも、いつもそうだという訳ではない。僕がこんな乱行をやるようになった動機についても、またその他の僕のこの六カ月間の私行の動機についても、心の奥底では決して分っていないのではない。なるほど、彼女には、明らかに口に出して、それを説明することはできないかも知れない。しかし彼女の僕に対する愛は、彼女にそれを直覚させないではいない筈だ。現に、僕のこの乱行の間に僕に対する彼女の態度には、この直覚から出た彼女の態度には、僕は彼女に感謝しなければならない多くのものを見ている。
また、君に対する彼女の心持とても、必ずしも例の「狐さん」ばかりでいつも充たされているのではない。君は、御宿へ行く時に僕の財布から少々の金を持って行ったことを、彼女が君を軽蔑しあるいは自らを不安に思っていやしないかと心配しているようだったが、彼女とてもそれほどの馬鹿ではない。新聞記事などによって余計な推測をしてはいけない。彼女はまた、そのことをもってただちに、君が「働きのない」辻を去って、「働きのある」僕のと
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