燻蛯、しかも二人の女に寝とられた女である。
 保子のことについて考える時には、第一番にまず、このことをしっかりと念頭に置いてかからねばならない。そして、彼女から亭主を寝とった君や神近は、自分等の考えの進みかたのえらさ[#「えらさ」に傍点]によほどの割引きをして反省しなければならないとともに、なお保子の態度について物を言う時には、よほどの遠慮がなくてはならない。
 保子は、諸君のごとき反省や思索のトレーニングのない、無教育な女だ。しかし彼女は、生じっか学問のある女よりは、よほどよく物事の分る女だ。むずかしい理屈を言うことはとても諸君に及びもつかないが、世俗のことについてならば、諸君なぞはとても彼女の足もとにも及び得るものでない。それに彼女は、ふだんはずいぶんやさしいおとなしい女であるのだが、それでいて、なかなかに意地もあり張りもある女である。
 しかるに彼女は、こんどのことのあって以来、急に意地も張りもなくして、愚痴といやみ[#「いやみ」に傍点]の、分からずやになってしまった。何事に対してでもずいぶん思い切って無茶をやる僕の心情については、従来は本当によく理解していてくれたのだが、こん
前へ 次へ
全30ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング