ニを仕遂げて来た僕等は、さらに翻って、僕等のいわゆる犠牲者となった人達のことを考えて見なければならない。そして僕等はその人達のことを考えるに当って、僕等自身の心持をもって律することなく、やはりその人たち自身の現実にまで降って見なければならない。
まず女の人達のことにのみついて言えば、君は保子と神近という二人のいわゆる犠牲者を出した訳だ。もっとも神近は、最初は保子を犠牲者の地位に陥しいれて、さらに君のために、こんどは自分が犠牲者になったのだが、したがって神近は、保子に対する心持と、君に対する心持との間に、単にこの地位の上からのみでも、よほどの差異を持っていた。さきに僕が、君の他の女に対する心持の進みかたと、他の女の君に対する心持の動きかたとに、自ずから相異するところがあると言ったのは主としてこの地位の上にもとづくものを指したのだ。さらに分りやすく言えば、人の亭主もしくは愛人をねとった女と、その男をねとられた女との心持の差異である。
君は、自分が僕の愛を一番多く持っているということに、自分の安心があるのではないかということを、絶えず怠らずに反省している、と言う。しごく結構なことだ。しか
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