驍フ馬鹿らしさと、同様のことである。ただここには、嫁と姑との間のごとき、一種の権力関係のないことが、しあわせである、ぐらいのことである。もっと適切な例を挙げれば、諸君の間の関係は、勿論、本妻と妾、もしくは妾同士が、あきらめや妙な粋から、本意なくも笑顔をつくり合っているようなものであってはならない。こんなことは、今ことに君に向って言う必要は少しもないのだが、世間の奴等は、とかく自分等の間の一般事実をもって、他の特殊の事実をも律しようとしたがるものだから、無駄なことまでも言わなければならない仕儀になる。
 無駄と言えば、今僕が書いて来たことの大部分は、すべて無駄なので、「一情婦に与えて女房に対する亭主の心情を語る文」と題しながらも、実はまったくそれに触れることなくして、そのいわゆる一情婦の男およびその女房や他の情婦に対する心持の紹介と註訳とに力を尽して来たのも、要するに世間という馬鹿な奴等がさせるのだ。
 君の心持は、君自身がやはりこの雑誌の本号に書くという、あるいは近く『大阪毎日』に連載するという、君の文章の中で、勿論もっと詳細にかつもっと正確に発表されることと思う、したがって僕のこの紹
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