っ張りであったね。二月のいつであったか、(僕には忘れもしない何月何日というようなことは滅多にない)三年越しの交際の間に初めて自由な二人きりになって、ふとした出来心めいた、不良少年少女めいた妙なことが日比谷であった以来「なおよく考えてごらんなさい」と言って別れて以来、それからその数日後に偶然神近と三人で会って、僕のいわゆる三条件たる「お互いに経済上独立すること、同棲しないで別居の生活を送ること、お互いの自由(性的のすらも)を尊重すること」の説明があって以来、君はまったく僕を離れてしまった形になった。
 君には、この「性的のすらも」ということが、どうしても承知できなかったのだ。僕には保子という歴とした女房があることも知ってい、神近という第一情婦(『万朝報』記者からの名誉ある命名)のあることも知ってい、そしてまた自分にも辻という立派な亭主のあることも忘れていた訳でなく。(三行削除)
 もっとも、過って改むるに憚ることなかれ、とも言う。もし君が、世間での評判のように、きわめて動揺しやすい、いわゆる出来心的の女であったのであらば、すなわち僕とのあのこともほんの一時の浮気であったのであらば、過って
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