の色も大ぶ蒼白くはなっていたが、それでも元気で出て来た。
 差入室の一室でしばらくみんなで快談した。迎えられるものも迎えるものも大がいみな獄通だ。迎えられるものは盛んにその新知識をふりまく。迎えるものは急転直下した世間の出来事を語る。
「おい、抱月が死んで、須磨子がそのあとを追って自殺したのを知っているかい?」
 とたしか堺が二人に尋ねた。
「ああ知っているよ。実はそれについて面白いことがあるんだ。」
 荒畑が堺の言葉のまだ終らぬうちに、キャッキャと笑いながら言った。
 荒畑の細君が、何とかして少しでも世間の事情を知らせようと思って、さも親しい間柄のように書いて抱月の死を知らせたのだそうだ。
「ええ、先生にはずいぶん長い間学校でお世話になったもんですから。」
 荒畑はその手紙を見てやって来た教誨師にでたらめを言った。荒畑は抱月とはたった一度何かの会で会ったきりだった。勿論師弟関係もなんにもない。
「ついちゃ、お願いがあるんですが。」
 と荒畑はちょっと考えてから言った。
「そんな風ですから、別に近親というわけでもないんですが、一つ是非回向をして下さることはできないものでしょうか。」
 
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