教誨師はまた何か厄介な「お願い」かと思ってちょっと顔を顰めていたが、その「お願い」の筋を聞いて、顔の皺を延ばした。そして今までは死んだ人の話をするのでもあり、ことさらに沈欝らしくしていた顔色が急ににこにこと光り出した。
「え、ようござんすとも、お安い御用です。」
教誨師はこう言って、荒畑を教誨堂へ連れて行った。荒畑はこの教誨堂なるものを一度見たかったのだ。そして坊さんにお経でも読まして、その単調な生活を破る皮肉な興味をむさぼりたかったのだ。
「どうだい、それで坊さん、お経をあげてくれたのかい?」
荒畑がお茶を一杯ぐっと飲み干している間に僕が尋ねた。
「うん、やってくれたともさ。しかも大いに殊勝とでも思ったんだろう。ずいぶん長いのをやってくれたよ。」
「それや、よかった。」
とみんなは腹をかかえて笑った。
「で、こんな因縁から、お須磨が自殺した時にもすぐその教誨師がやって来て知らせてくれたんだ……。」
まだ書けばいくらでもあるようだが、このくらいでよそう。書く方でも飽きた。読む方でももういい加減になった頃だろう。
底本:「大杉栄全集 第13巻」現代思潮社
1965(
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