麻繩をそばへ投って、布団の下にかくしてある、『復活』をとり出した。そしていい気持になって、さっきの続きを読み始めた。
その後数カ月の間、あるいはとうとう出る最後の時までであったかも知れない、僕はその不愉快な老教誨師の顔を見ないで済んだ。
出獄後聞くと、この教務所長は面会に来る女房にしきりに自宅へ来るようにと言っていたそうだ。そしてそれは、本人の行状について詳しく話もし聞きもしたいということであったそうだが、来るにはどうせ手ぶらでは来まいという下心があるらしかったそうだ。現に同志の一人の細君は、面会へ行くたびにお土産物を持って彼を訪うて、ずいぶん歓待されたという話だ。が、僕の女房は、早く出獄した他の同志から僕と彼との間柄をよく聞き知っていたので、とうとう訪ねても見なかったそうだ。
それから二年ばかりして、ある日の新聞に、この教務所長が収賄をして千葉監獄へ収監されたという記事を発見した。もっともその後証拠不十分で放免になったと聞いたが。
教誨師については先日面白い話を聞いた。荒畑と山川とが東京監獄から放免になるのを、朝早く、門前のある差入屋まで迎えに行った。二人とも少し痩せて顔
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