う。
 千葉では、僕等が出たあとですぐ、同志の赤羽巌穴が何でもない病気で獄死した。その後大逆事件の仲間の中にも二、三獄死した。今後もまだ続々として死んで行くだろう。
 僕はどんな死にかたをしてもいいが、獄死だけはいやだ。少なくとも、あらゆる死にかたの中で、獄死だけはどうかして免かれたい。
 収賄教誨師[#「収賄教誨師」は太字]
 獄中で一番いやなのは冬だ。
 綿入れ一枚と襦袢一枚。シャツもなければ足袋もない。火の気はさらにない。日さえ碌には当らない。これで油っ気なしの食物でいるのだから、とても堪るものではない。
 体操をやる、壁を蹴る。壁にからだを打つける。運動に出れば、毎日三十分ずつ二回の運動時間をほとんど駈足で暮す。しかしそんなことではどうしても暖かくならない。
 冷水摩擦をやる。しかもゆうべからの汲み置きのほとんどいつも氷っている水だ。この冷水のほかにはほとんどまったく暖をとる方法がない。それで朝起きるとまず摩擦をやる。夜寝る前にも、からだじゅうが真赤になるまでこすって、一枚こっきりの布団に海苔巻きになって寝る。かしわ餅になって、と人はよく言うが、そんなことで眠れるものではない。
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