『万朝報』を読んで、毎晩一合か二合かの晩酌をやっていたそうだ。
 僕ももし酒が飲めれば、葡萄酒かブランデーならいつでも飲めた。それは看護人が薬室から泥棒して来るのだった。
 医者も役人ぶらずによく待遇してくれた。看守もみな仏様で、僕はほとんど自分が看守されているのだという気持も起らなかった、ぐらいによく謹しんでいられた。
 御馳走も普通の囚人よりはよほどよかった。豚汁が普通には一週間に一回だったのが二回あった。それに豚の実も普通よりは数倍も多かった。
 僕はこの病監で、自分が囚人だということもほとんど忘れて一カ月余り送った後に、足の繃帯の中に看護人等の数本の手紙を巻きこんで出獄した。
 しかし、これがほんのちょいと足の指を傷つけたぐらいのことだから、こんな呑気なことも言って居られるものの、もしもっと重い病気だったらどんなものだろう。僕は先きに肺病でもいいから病監にはいりたいと言った。今僕は、現に、千葉のお土産としてその病気を持って来ている。もうほとんど治ってはいるようなものの、今後また幾年かはいるようなことがあって、再び病気が重くなって、病監にはいらなければならぬようになったらどうだろ
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