囲まれて立っている。そしてその花の間を、呑気そうに、白い着物を着た病人がうろついている。
 僕は本当にどうにかして病人になりたいと思った。もし五年とか、十年とか、あるいは終身とかいうような刑ではいった時には、僕はこの病人のほかには僕の生きかたがあるまいとすら考えた。肺病でもいい。何でもいい。とにかく長くかかる病気で、あすこにはいらなくちゃならんと思った。
 が、一度、巣鴨でこの病監にはいることができた。前に話した徒歩で裁判所へ行く道で、つまずいて足の拇指の爪をはいだ。そこにうみを持ったのだった。
 巣鴨の病監は、精神病患者のと、肺病患者のと、普通の患者のと、三つの建物に分れている。僕はその最後のにはいった。いい加減な病院の三等や二等よりもよほどいい。僕のは三畳の室で、さすがに畳も敷いてある。そこへ藁布団を敷いて、室一ぱいの窓から一日日光を浴びて、そとのいろんな草花を眺めながら寝て暮せばいいんだ。看護人には、囚人の中から選り抜きの、ことに相当の社会的地位のあったものを採用する。僕には早稲田大学生の某芸者殺し君が専任してくれた。
 かつて幸徳は、この病監にはいって、ある看守を買収して、毎朝
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