昼も、膝っこぶのあたりから絶えずぞくぞくして来て、時とすると膝が踊り出したように慄える。そして上下の歯ががちがちと打ち合う。そんなになると、日に二度でも三度でも、素裸になってからだをふく。これで少なくとも一時間は慄えを止めることができる。
 冬の間の一番のたのしみは湯だ。「脱衣!」の号令で急いで着物を脱いで、「入浴!」で湯にとびこむ。
「洗体!」の号令すらもある。多くは熱くてはいれないほどの湯に、真赤になって辛抱している。それほどでないと、夕飯前の湯が夜寝る時までの暖を保ってくれない。
 稀れに、夕飯の御馳走が、鮭か鱒かの頭を細かく切ったのを実にしたおつけの時がある。その晩は、さすがに、少し暖かく眠れる。
 それでも不思議なことには滅多に風をひかない。この二月の初めに、四カ月の新聞紙法違犯を勤めて来た山川のごときは、やはり肺が悪くてほとんど年中風を引き通している男だが、向うではとうとう風一つ引かずに出て来た。そして出るとすぐ例の流行性感冒にやられて一月近く寝た。

 こういった冬の、また千葉でのある日のこと。教務所長という役目の、年老った教誨師の坊さんが見舞いに来た。
 監獄にはこの教
前へ 次へ
全51ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング