はやはり、前と同じように親しみ狎れ、または軽蔑していた。ある押丁あがりの看守のごときは、その男は今でもまだ看守をしているが、その姓が女郎の源氏名めいているところから、夜巡回に来て二階の梯子段をかたかた昇って行く時なぞに、「○○さんえ」と終りの方を長くのばした黄いろな声で呼ばれて、からかわれていた。
しかしかの老押丁とは誰一人口をきくものもなかった。先きに言った僕との知友の強盗殺人君ですらも、この老押丁とは多くはただ睨み合ったまま黙っていた。看守も、他の押丁に対しては時々大きな声で叱ったりすることもあるが、この老押丁に対してだけはよほど憚っていた。用事以外には口もきかなかった。
老押丁はこうしてみんなに憚かられ気味悪がられ恐れられながら、いつも傲然として、得々として自分の定められた仕事をしていた。そして自分のすることについて少しでも口を出すものがあれば、被告人でも上役のものでも誰彼の別なく、すぐに眼をむいて怒鳴りつけた。僕はこの男が一度でも笑い顔をしたのを見たことがなかった。
やがて僕は、この男に、だんだん興味を持ち出して来た。気味の悪いのや、折々怒鳴りつけられて癪にさわるのは、
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