りいて、出てからまだ二月とは経たぬうちに、再び巣鴨へやられた時のことだ。巣鴨のあの鬼ヶ島の城門を、護送の看守が「開門!」と呼ばわって厚い鉄板ばかりの戸を開かせて、敷石の上をガラガラッと馬車を乗りこませた時だ。
 僕はいつものように、馬車の中の前のはじに腰をかけて、金あみ越しにそとを眺めていた。門が開くと監獄の前の、広い前庭の景色が眼にはいった。その瞬間だ。僕は思わず腰をあげて、金あみに顔を寄せて、建物のすぐ前に並んでいる桧か青桐かの木を見つめた。そしてしばらく、と言っても数秒の間だろうが、あの一種の感に打たれてぼんやり腰を浮かしていた。それに気がつくと、すぐに僕は、かつて帰省の途に汽車の中で打たれたかのインスピレーションを思い出した。ちっとも違わない、同じ親しみと懐かしさとの、そして一種の崇高の念の加わった、インスピレーションだ。
 僕は初めて、これが本当の故郷の感じなのだ、あの時のもやはりそうだったのだ、と本当に直覚した。
 馬車から降りる。何一つ親しみと懐かしみとの感ぜられないものはない。会う看守ごとに、
「やあ、また来たな」と言われるのすらも、古い幼な友達か何かの、暖かい挨拶に聞
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