髄の中に、光りを拡げなければならない。労働者は其の肉体は動いているが、其の思想は大抵休んでいる。此の思想を働かせる事が肝心なのだ。そして、少しでも其の思想を働かせる事が出来て来ると、それは労働者にとって快楽にさえなるのだ。しかし、民衆をただ考えさせ働かせる状態に置くだけでとどめなければならない。如何に考え如何に導くべきかを教えてはいけない。労働者をして、有らゆる物事を、人間や自分自身を、明かに観察し明かに審判する事を覚えさせなければならない。
 歓喜と元気と理知と、これが民衆芸術の主なる条件である。其他の諸条件は自然と備わって来る。そしてお説法やお談義は、折角《せっかく》芸術を好きなものまで嫌いにさせて了う、手段としても極めて拙劣な非芸術的のものである。
 又、此の種の民衆芸術は、近代の謂わゆる社会劇とも違う。たとえば、平民を最もよく理解し、又最もよく愛した現代人トルストイは、あれ程厳しく其の傲慢を圧えていたのにも拘らず、使徒と云う其の使命と自分の信仰を他人に強いなければやまない強い欲望と、及び其の芸術上のレアリズムの要求とは「暗の力」などでは、其の非常な慈悲心よりも余程強かった。斯く
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