れなければならない。これは民衆の心が無邪気なせいではない。却って其の健全な為めである。民衆の此の確信には道理がある。此の確信は、生活に必須の一つの力であり、又進歩の法則でもある。
 然らば、民衆には、散々人を泣かせて置いて遂に目出度し目出度しで終るメロドラマでなければいけないと云うのか。決してそうではない。斯う云う粗雑な虚偽は、アルコオルと同じように、民衆を無気力にする催眠剤である。麻酔剤である。吾々が芸術に持たせたいと思う娯楽の力は、精神的元気を犠牲にするものであってはならない。
 次ぎに民衆芸術は元気の源でなければならない。元気を弱らしたり凹ましたりする事を避けなければならないと云う義務は全く消極的のものである。従って此の義務には、必然に、其の反対の、即ち元気を得させ又強めさせる、と云う積極的の方面がある。民衆芸術は民衆を休息させつつ、更に翌日の活動に適せしめるようにしなければならない。
 第三に、民衆芸術は理知の為めの光明でなければならない。民衆を其の目的地にまっすぐに導いて、途々自分の周囲をよく見る事を教えなければならない。暗い蔭と襞《ひだ》と妖怪とに充ち満ちた人間の恐ろしい脳
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