れた人々の苦痛や煩悶や疑惑は、其の人々自身が保管して置くがいい。民衆には、民衆自身の苦痛や煩悶や疑惑が、其の分前以上にある。それ以上に増やす要はない。少数の或る人々が、「鼬鼠が卵を吸うように憂欝を吸う」事が好きだからと云って、此の貴族共の知識的禁欲主義を民衆に強いる事は出来ない。腐った木の上に出た大きな苔のような、誘惑的な、しかし一切の行為を殺す夢想によって害毒された、選ばれた人々の病的な感情の複雑さを平民に強いる事は出来ない。よし吾々が其の病気を吾々自身の中に養う事にどれ程の満足を感じても、吾々の其病気を民衆に感染させてはならない。吾々よりも更に健全な、更に値打のある種族をつくる事に努めなければならないのだ。
民衆は猛烈な芝居が好きだ。しかし其の猛烈は、実生活の上でもそうだが舞台の上でも、民衆が自分を其の人になぞらえて見ているヒイロオを破滅させて了ってはいけない。民衆は自分自身はどれ程諦らめどれ程気落ちしていても、其の夢想の人物の為めには非常に楽観的なものである。悲しい結末になっては堪《たま》らない。最後に善が勝つと云う皆んなの心の奥底に持っている衷心からの確信が、芝居の中で証明さ
前へ
次へ
全27ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング