旨はこれで尽きる。しかしこれは要するに理想である。信仰である。此の理想や信仰の実現される前に、「民衆によって」と云うよりも寧ろ「民衆の為めの」芸術が産まれなければなるまい。
 今や芸術は利己主義と混乱とに悩まされている。少数の人々が芸術を其の特権としている。民衆は芸術から遠ざけられている。国民中の最も数の多い、そして最も活力のある部分が、芸術の中に何等の表現をも持っていない。斯くして思想は甚だしく貧弱となり、芸術の為めには重大な危険が迫っている。
 芸術を或る一階級の独占的享楽として了うのは、此の芸術を奪われた階級の人々をして、やがて芸術を憎悪せしめ且つ破壊せしめる事に導くものである。
 芸術を救う為めには、芸術に生命の門戸を開かなければならない。有らゆる人々を其処に容れなければならない。平民にも発言権を与えなければならない。
 しかし生は死と結びつく事は出来ない。過去の芸術は既に四分の三以上死んだものである。過去の芸術は生には何んの役にも立たない。却って往々生を害《そこな》う恐れすらある。健全な生の必須条件は、生の新しくなるに従って、絶えず新しくなる芸術の出来る事である。
 何者もた
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