余暇が、値打のない娯楽で費されているか、若しくは本当の休養即ち肉体上及び精神上の力の更新の為めに使われているか、と云う事は最も重大な一問題である。」
 エレン・ケイの此の勧告に対しては、いかにつむじ曲りの社会民主党と雖《いえど》も、然らば女史も亦其の謂わゆる教養戦争と共に階級闘争をも鼓吹せよと云う外には、黙って傾聴する外はあるまい。又、若し本間君が単にこれだけの紹介にとどめたならば、安成君からあんな意地の悪い妙な質問を受けなくても済んだのであろう。
 エレン・ケイは、本間君が云ったようには「要するに彼等労働者には惨めさと醜くさとがあるばかりである」とは云っていない。「慈母のような温情」を以て、此の「惨めさと醜くさとを人一倍深く感じ、そして人一倍深く憐れんでいる」と云う程でもない。「其処《そこ》には、人間と人間とが互に抱き合うような情味や、人間としての生の享楽などと云う事は薬にしたくもない」とも云っているようだ。それ程醜い「蛮人」に、どうして、「人類全体の直接の将来」などが握られていよう。又、どうして握らせて置かれよう。
 又、エレン・ケイは、本間君が云ったようには、専門的な予備知識を持
前へ 次へ
全27ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング