すなわち被征服者の中の知識者が、征服者の階級に仲間入りをして、その征服事業に協力することとなる。そして権利と義務とが、両階級の間に、もっと適切に言えば、征服階級と被征服階級の一部分との間に、多少相互的になる。
 この相互的ということは、いまだ不平等を生じない被征服階級に対する、絶好の瞞着手段であったのである。すなわち知識者は言う。
 見よ、今やわが部落は征服階級のみの部落ではない。彼等はすでに先きの非を悟って被征服階級たる吾等に参政権を与えた。万人は法律の前に平等であると。
 なお種々なる事情は、一方に征服者をして諸種の譲歩をなさしめるとともに、また一方に被征服者をして空虚な誇りとおよびあきらめとに陥らしめる。そして両階級の間に、漸次に皮相的妥協を進めて行く。
 僕は今、この征服の事実について、詳細を語る暇はない。けれども以上に述べた事実は、いやしくも正直なる社会学者たらんものの、恐らくは何人も非認することのできない事実である。

 歴史は複雑だ。けれどもその複雑を一貫する単純はある。たとえば征服の形式はいろいろある。しかし古今を通じて、いっさいの社会には、必ずその両極に、征服者の階級
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