よいよ遠く、あるいは島嶼にまで移り住んで、他の集団と接触することもなく、したがって何の煩わされることもなく、その単純な半獣的存在を続けた。今日なお世界の各地に残っている原始人種はすなわちこれである。けれどもさほどに遠くまで中心地を離れなかった集団同士の間に、やがてその人口の迅速な増加とともに、相互の接触と衝突とが生じて来た。そしてそこに、従来の平安な、半獣的自由の生活が失われて、いわゆる文明が生れかけて来た。歴史が始まりかけて来た。

 その間にこれらの各集団は、その共通起原の伝習も痕跡も失って、各々違った言語や風習や宗教を持つようになり、まったく異なった種族を形づくってしまった。そして各種族は互いに接蝕するごとに、衝突となり戦争となって、残酷な仇同士となった。
 この形勢は、発明、しかも主として攻撃と防禦との方法を生産することに向った発明の、有力な刺激になった。戦争の勝敗は今も昔も、個人の勇敢ということよりも、むしろ、武器の機械的優劣によるものである。かつ尚武心は発達した。野心深い酋長等は、互いに政略を競い始めた。
 グンプロウィツとラフエンホフアとは、この種族間の闘争によって社会が
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