の離れにいた。士官学校の教官をして、陸軍大学校の入学準備をしていたのだ。
女中どもは僕を越後の若様と言った。そして僕が何かするたびに何か言うたびに袂で口を蔽うては笑いこけていた。お繁さんは(僕はお姉さまと呼んでいたが)そのたびに美しい目で女中どもをにらみつけるようにしていたが、やはりその可笑しさを隠しきることはできなかった。
洋食の御馳走が出た。越後の若様はどうしてそれをたべていいか分らなかった。新発田にはまだ洋食屋もなく、家ででも洋食なぞをたべることがなかった。で、みんなのする通りにビフテキか何かをようやくのことでナイフで切って、それを口に入れたが、切りかたが大きすぎたので口の中で一ぱいになって、どうともすることができなかった。みんなは笑った。そしてお繁さんだけは、いつまでもいつまでも、僕の顔を見ては思い出すように笑っていた。
僕はお繁さんを日本で一番の美人だと思った。お繁さんの姉さんも綺麗だった。そしてこの姉さんは、田中という騎兵大尉の、陸軍大学校の学生のところに嫁いていた。
僕は来年は必ず幼年学校の試験に及第してうんと勉強して陸軍大学にはいるんだときめた。
お繁さんの
前へ
次へ
全234ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング