が、どうしても駄目らしかった。僕は虎公が可哀そうで堪らなかった。そしてとうとう一策を案出してそれを虎公に謀った。それは僕が使った本はみな虎公にやるから、虎公はその伯父さんから月謝だけ出してもらって、学校へ行くがいいというのだった。
虎公は非常に喜んで、すぐそれをお婆さんに話して、伯父さんに相談に行った。伯父さんというのは典獄を勤めていた。
が、虎公の運命はもう、そのよほど以前にきまっていたのだった。彼は伯父さんの家から泣いて帰って来た。中学校へはいりたいなぞという非望を叱られて、近々に函館のある商店へ小僧に行くようにと命ぜられて来たのだ。
僕は虎公のこの運命をどうともすることができなかった。二人は相抱えて泣いた。そして僕は大将になるから、君は大商人になり給えと言って、永久の友情を誓った。
虎公と僕とは記念の写真を撮った。そして僕は母にねだって、暖かそうなフランネルのシャツとズボン下とを作ってもらって、それを餞別に送った。
僕は大将になり損ねたが、虎公ははたしてどうしているか。彼の本名は西村虎次郎と言った。
虎公が行ってしまってからすぐ僕は幼年学校の入学試験を受けた。そして
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