のだ。お爺さんのかけ声はこっちの腹にまで響くように気合がこもっていた。そしてその太刀で棒を圧えるようにして、じりじり進んで来られると、僕はちょっと自分の棒を動かすことができなかった。
お爺さんは目がわるくて自分で書けないからと言って巻物になっている「目録」を持って来て、僕に写さした。東方の摩利支天、西方の何とか、南方の何とか、北方の何とか、というようなことがあって、呪文めいた片仮名の何だか訳のわからんことの書きつづけられた妙なものだった。そしてその最後には、この「目録」を伝えられたことの系図のようなもので、源の何とかから藤原の何とかに、という十幾つか二十幾つかの名が連らねられてあって、最後に源の何とか森田何兵衛殿へとあった。これがお爺さんの名なのだ。そしてお爺さんは、この系図のおしまいに自分の名をいれて、そのあとへ大杉栄殿へと書くように言った。
片仮名の呪文は何の意味だかちっとも教えてくれなかった。が、人が見てはいけないと言って、裸で土蔵の中にはいって、あて身や何かを教えてくれた。
その後このお爺さんは、父のところへ来て、兵隊に玉除けのまじないをしたいからと言って、大ぶ手こずらし
前へ
次へ
全234ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング