え、確かに見覚えはあるんですけれど、どなたでしたかな。」
「もうちょうど二十になるんだからね。分らんのも無理はあるまいが……」
「いや、そのお声で思い出しました。これやほんとうにしばらくめですよ。」
主人はそれで小僧にお茶を入れさした。そして僕は昔の友人の行方をいろいろとこの主人から聞いた。新発田の中学校を出たものなら、主人はほとんどみなよく知っていた。
友人等との会の話が本屋のことにそれてしまった。もう一度話をもとに戻そう。
この会での一番大きな問題は、遼東半島の還附だった。僕は『少年世界』の投書欄にあった臥薪嘗胆論というのをそのまま演説した。みんなはほんとうに涙を流して臥薪嘗胆を誓った。
僕はみんなに遼東半島還附の勅諭を暗誦するようにと提議した。そして僕は毎朝起きるとそれを声高く朗読することにきめていた。
虎公は高等小学校を終えるとすぐ北海道へ小僧にやられた。そしてその数年後にまったく消息が絶えてしまった。谷は僕よりも一年遅れて幼年学校にはいった。今はたぶん少佐くらいになっているだろう。杉浦は、その家が何をしていたのか当時は知らなかったが、そしてその家の相応な構えなのに
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